カサンドラ症候群リサーチ 特性パートナーとのコミュニケーション不全に苦しむ女性クライエントの主体性支援研究

ごあいさつ

本研究は、女性のメンタルヘルス分野における重要な課題である発達特性のあるパートナーとの関係不全に悩む女性の心理療法支援を取り上げ、障害の社会モデルの視点を導入することにより、治療関係の膠着や中断、女性の無力感・自責感の高まりによる世代間連鎖を防ぎ、適切な心理支援モデルを構築することを目的とします。具体的には、以下3点について取り組みます。

1)専門的相談機関に対するアンケート調査、インタビューの実施
2)発達特性パートナーとの関係不全に悩む女性向けテキスト作成
3)発達特性パートナーとの関係不全に悩む女性向け情報提供

帝京大学心理臨床センター
笠井さつき

研究の目的

特に女性の心理的困難への心理療法的介入が、個人の内界への荷重な焦点づけから治療の中断や膠着、無力感・自責感の高まりを招き、次世代への連鎖に繋がることもあった。特に発達特性パートナーとの関係不全のアセスメントにおいて、その関係に個別性のみならず、日本の社会における夫婦関係のあり方などの普遍的な課題が絡みあっていることが、クライエント−セラピスト双方に無自覚な場合にこうした状況が多く生じる。そこで本研究は、ICFの「障害(ディスアビリティ)の社会モデル」、すなわち障害を個人の特性(インペアメント)に帰すのではなく、個人のダイバーシティと社会の間に生じるもの(ディスアビリティ)として捉える視点を心理臨床実践に導入することにより、心理支援職や当事者への アンケート・ インタビュー質量混合調査を通じて、発達特性パートナーとの関係不全に悩む女性の心理支援の新しいモデルを提案することを目的とする。

研究の概要

Aston (2005,2007)は、発達障害に含まれるアスペルガー症候群のパートナーが陥る経験を「カサンドラ症候群」として、のちにその対象を広げて「情動剥奪障害(以下、AfDD )」と特定した。日本においても宮尾・滝口(2017)岡田(2018)の報告により,そうした発達特性パートナーの特徴である共感性の欠如から関係不全に悩む女性が多く専門相談機関を訪れることがわかった。しかしパートナーとの関係そのものが相談内容ではない場合も多く、クライエント自身の心身の症状や子供の問題などの訴えに焦点づけるあまりにパートナーの特性という要因が見落されると、症状の改善もなく女性クライエントの無力感・自責感が子供を含めた家族へ影響するなど、そうした一面的なアセスメントにもとづく対応による弊害は計り知れない。専門相談機関においてはその対応必要性が喫緊の課題として高まる一方、これまで本テーマが学術的に扱われる機会は乏しかった。そこで本研究において申請者は該当ケースの心理支援の現状を学術的に調査し、該当ケースの特定と有効な心理療法的対応を検討すると同時に、発達特性パートナーの問題指摘だけにとどまらずにその関係者が利用可能な情報をテキスト作成等により提示する。さらに、それらの調査で得られた知見を、日本で女性であることの主体性のテーマとして広く社会文化的文脈から考察する。

【参考文献】

  • Aston,M retrieved online 05 October 2020 https://www.maxineaston.co.uk/
  • 宮尾・滝口(2017)夫がアスペルガーだと思ったとき妻が読む本.河出書房新社.
  • 岡田(2018)カサンドラ症候群.身近な人がアスペルガーだったら.角川新書.
  • 本研究は,帝京大学人間を対象とした心理学研究倫理委員会により 倫理審査を受け承認された(No.596)。
  • 本研究は,令和3年度科学研究費助成事業 基盤研究C(21K03055)の助成を受けている。